“アーティストトーク” 前編

 

Online Exhibition

山森菜々恵 山といえば川

2020.5.16 Sat – 31 Sun

at  sklo.jp

 

 


 

五月某日、市内某所

 

犀川:本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、今回はオンラインでの個展ということで、作品の画像などは拝見しておりましたが、実際の会場はこんな感じだったのですね。

山森:はい。あくまで展示会場はSKLoさんのHP上にあって、会場に来たとしてもそこが崩れないようにしようと思いました。ただ、オンラインに絞るぞ!と気持ちを決めたときには、県内の感染の拡がり方にはおそろしいものがあったのですが、実際の今の状況は、想定よりもかなりゆるりとしているように感じます。

 

山森さんの制作スタイルと個々の作品について

 

犀川:山森さんは漆を使って作品を作られています。今回展示されている作品も全て乾漆技法で作られていますよね。でも、最初に作品を拝見したときには、漆だとは分かりませんでした。鏡面仕上げの漆らしい作品もあるのですが、それ以外の、あまり漆らしく見えないような作品は、どういう意図で作られているのでしょうか。

山森:まず、私が漆を始めたきっかけから話したいのですが、私は初めて漆の作品を生で見たときに、漆を使えば何でもできる、と思ったのです。高校生1年生の時でした。金沢美術工芸大学の修了展を見て、キャプションに「素材:漆」とある作品たちのどの部分が漆なのかが分からなくて、あれもこれもそれも漆でできているのだとしたら、漆って何でもできる素材なのでは?と思ったのです。その後、美大のどの専攻に行きたいかを考えているときに、なるべく制約がなくて何を作っても良い専攻が良いなと思い、それで漆のことを思い出しました。そういうきっかけなので、おそらく一般的に思い浮かべられるようなこれぞ漆みたいな方向は、最初から目指していなかったです。小中学校で習う程度の知識しか持っていなかったときは、漆=つやつやしていて黒い=高級、みたいな認識でしたが、実際に出会ったときの第一印象は自由度が高くてなんでも作れそう、というものだったのです。その後、漆を学びだしてからは、こうするべき、とか、これはすべきでない、とかいうジャッジを自分自身に下す癖を身に着けてしまったりしましたが、結局それで息苦しくなっていることに気が付き、意識的にその思い込みを外していくようになりました。

犀川:それで、漆らしさを感じないような仕上げのものが多いのですね。初歩的なことをお聞きしますが、どういった手順で作品を作られているのですか? 

山森:最近作ったものはほとんど、身近な生活雑貨や粘土で作った原型を石膏で型取りし、その型に漆の下地を塗り、麻布を漆で貼り重ねて型から外す、という手順で作っています。型取りをはじめたきっかけは、漆で偽物を作りたいと思ったことでした。歯ブラシを作って、柄の部分を水色の顔料を混ぜた漆で塗ったら、本当にプラスチックみたいに見えましたし、間違える人もいました。その後段々と本物みたいに見えるということから逸脱し、あえて裏側の布目が見えるような張りぼての構造にすることが多くなりました。強度を保つ最低限の厚さしかない、ぺらぺらした張りぼて構造の偽物っぽさが気に入っています。表面処理に関しては、何でできているのか、ちょっと見ただけではよく分からないようにしています。たまに漆っぽい見た目のものも作るのですが、そういうときは漆に漆役を演じさせているような感覚でいます。

犀川:新作の洗濯板の作品≪I-SMHT≫(2020)は、SKLOで取り扱っているアンティークの洗濯板をモチーフに作られたとお聞きしました。

山森:以前にも洗濯板を乾漆でつくったことがあるのですが、私はそれを包丁っぽい輪郭の乾漆の板と共に展示して、見た人が必ず「まな板」と呼ぶことを面白がっていました。まな板のように見えたのは、板状の形をしていて、包丁がそばに置かれてあったことが原因だと思っていたけれど、それではないかもしれない、と今回思い直しました。以前作ったものは100円ショップで購入したプラスチック製の洗濯板を型取りしていたのですが、SKLOで洗濯板を見たとき、これはまな板には間違われないだろうなと思ったんです。それで、過去に作った洗濯板への自己批判的な意味で、SKLOの洗濯板をモチーフに制作をしました。単純に欲しいと思ったからでもあります。原型を作りながら、最初はあの木製の洗濯板のことが頭にあるから、木っぽいマチエールを付けていたけれど、途中で、粘土で作った木、という感じにしようと思いました。それを、更に漆に置き換えています。洗濯板なのかとか、まな板に見えるかとかよりも、表面に対して「なんだこれ」という引っかかりを感じさせたかったのです。タイトルの≪I-SMHT≫とは、「板-スクロで見て欲しくて作った」の略です。

犀川:他にもSKLOで見たものを参考にした作品はありますか?

山森:直接モチーフにしたものは洗濯板だけですが、一点購入させてもらったものがあって、それは新聞紙めくりです。見た目から、布団たたき的な道具だと思っていました。新聞紙めくりだと教えられても、何で新聞をめくるのにこんな道具が要るのか分からなくて、ほんとに?と思いました。試しに家で使ってみましたが、めくるためにどう役立てるのか、よくわからなかったです。新聞をピンと張って読むのには役立ちましたが。私は最初、これが新聞紙めくりだと聞いたとき、必要性の低い、過剰な道具だと思って面白く感じていました。しかし、私が怪我などで指をうまく動かせなくなった場合、これを重宝することがあるかもしれないわけですよね。そう考えると今度は、道具と使い手との間で機能の割り振りがあることが面白くなりました。新聞紙めくりをそのままモチーフにするかは分かりませんが、今後の制作で参考にするだろうと思います。

犀川:他の作品についても教えてください。今回見た中で一番漆っぽい仕上げがしてあった≪うつりこむはへん≫(2020)についてはどうでしょう?

山森:黒くてつやが上がったような作品は、過去にも全然作っていないわけではないんですが、今回の≪うつりこむはへん≫のように、部分的にしか塗っていないものばかりです。私は漆の層の薄さが好きで、あんなに思わせぶりなというか、高尚な感じのする表面の感じが、物理的にはすごく薄っぺらい層でできているというのがカッコいいと思っています。なので、つやをあげるときにはその構造を暴露するような見せ方をしていました。でも今回は、映り込むということにも焦点を当てています。漆を呂色上げすると、毎回おおーと感心してしばらくながめてしまうのですが、そうすると自分の顔が形態に沿って歪んでうつりこむので、色んな表情を作ってそれがどううつりこむかを見て遊んだりします。≪うつりこむはへん≫は、真ん中のあたりだけを磨いた、使おうと思えば使える、最低限の鏡というイメージで作りました。

そういえば過去に、コンパクトミラーを割ってしまって、コンタクトをつけるにも、お風呂上がりのパックも、顔と手の感覚だけでやらなくてはいけなくなったことがありました。洗面所にいけば鏡はあったのですが、寒いので、暖かいリビングでやっていました。リビングにはノートパソコンがあって、お風呂に入っている間にスリープするので、画面は黒くなっています。パックをちゃんと貼れているかの確認には、スリープしたパソコンのモニターを使っていました。それまで鏡という道具に頼りきりだったのに、道具を失ったことで自分の感覚に仕事が戻ってきたようでした。不十分な鏡、最低限の鏡においては、見るということに、より多くの感覚が投入される気がします。

犀川:新作だと、他には≪お皿→パレット→お皿≫や、わっかシリーズがありますね。

山森:≪お皿→パレット→お皿≫(2020)は、コンビニで買った冷やし中華の、具が乗っていたお皿を型取りして作っています。同じコンビニで、数日しか開けずに購入したのに、醤油だれとごまだれとで容器の形が違っていました。醤油の方かごまの方かは覚えていませんが、片方の具を乗せる皿がパレットにできそうな形だったので、乾漆におきかえ、実際にしばらく使っていました。乾漆のパレットは、使い勝手が良いというよりは、作業後の後始末が楽だったので重宝しました。普段はガラス版の上に漆を出して作業をしているのですが、使い終わった後は溶剤で拭き取らねばならないし、作業が長引くと一部漆が固まってしまったりして、カッターの刃で剥がしていたのですが、漆でできたパレットの上だと、漆が固まってしまっても全然気にならないし、表面がボコボコしてきてたのが嫌になったら、研いだり漆で埋めたりして平らにすればいいやと思えたので、精神的にとても楽ちんでした。現状は、展示の直前までパレットとして使ってから、お皿にもできるようにしようと思って表面を研いだ状態になっています。

展示が終わってから売れずに手元に戻ってきたら、またパレットとして使うと思います。

犀川:お皿とパレットの機能が入れ替わるのですね。山森さんがパレットの状態で展示したとしても、人によってはお皿として見るかもしれません。

山森:そうだと良いなと思います。わっかシリーズは、ほんとにただわっかを作りたくて作りました。パレットとお皿、洗濯板とまな板などのように、私は役割が入れ替わることについて考えながら作品を作っているのですが、複数の役割をこなしやすいのはやっぱり棒とか、板とか、器だとかの、単純な作りのものかと思います。私が作るわっかというのは、器から役立つ機能を取り去ったようなものです。見せかけの機能、といいますか、実際の生活では容器にはならないけれど、おままごとの中では容器になり得るようなものです。囲むだけなのです。わっか状の作品はこれまでも作ってきました。単純に紐でくるっと円を描いて漆で固めたものだとか、シャンプーハットなどです。でも、もっとシンプルなわっかを、もう少し手をかけて作ってみたかったのです。形態だけではなく、表情から何かが喚起されるようにと作りました。

犀川:≪I-SMHT≫でも、過去にモチーフにした洗濯板を、より表情に着目して改めて制作されていました。そういえば、これまでお話しいただいた作品は張りぼて構造になっていて、持たせてもらうとかなり軽かったのですが、青いボールのようなものと、もこもこした茶碗みたいな作品だけ作りが違いますよね。

山森:その2点は少し古くて、大学の修了制作として2015年に作ったものなんです。最近は石膏型を使っての制作がほとんどですが、当時は麻布を縫製したものに綿を入れて、ぬいぐるみ状にしたものに漆を染みこませて固めて、そこにさらに麻布を貼り重ねる、というやり方で制作していました。なので、その2点はもこもこ、むちむちした形をしていて、中に綿が入ったままになので少し重たいです。これはオリジナルの手法で、他で見たことのないやり方だとほめてくださった方も何人かいましたが、あまり合理的なやり方でなかったことも事実でした。偽物・張りぼてを作るという観点からと、もう少しすきっとした方法で作りたいという欲求があり、石膏型を使うようになりました。でも去年から再び、ぬいぐるみタイプの作品を作り始めています。まだどれも途中ですが。

青いボールの方は全然展示には出していなくて実家に置きっぱなしだったのですが、ある日母親が段ボールから見つけ出したようで玄関に飾られていました。白い展示台に乗せたときにはあまりピンと来なかったのですが、玄関にあるのを見て良いなあと思いました。SKLOのアンティークショップの方に置かせてもらえたら結構いいかもとも思いました。これを作った当初は、機能とか代替とかについては何も意図していませんでしたが、私は作品を展示ごとに使いまわして役割を変えたいと思っているので、アンティークの道具たちに囲まれていることによって、アンティークの道具について尋ねる流れで「これは何に使うんですか?」と質問する人が現れないかなと期待していました。それで、「それは作家さんの作ったもので…」と説明されて、確かに言われてみるとこれだけ浮いているなと思って欲しかったです。そういう経験を何度かすると、ものを見るときに疑い深くなって良いなと思うので。結局、お店を尋ねてもらってどうこうというのは、今回はやめにしましたが。(後編へ続く)

 

山森菜々恵 ”アーティストトーク”

前編 制作スタイルと個々の作品について

後編 漆という素材について/オンライン展示について